アパートやマンションといった集合住宅で、隣の部屋がゴミ屋敷と化し、強烈な悪臭を放っている。この悪臭によって、快適な生活が著しく妨げられている場合、その被害を受けている住民は、誰に責任を問い、改善を求めることができるのでしょうか。この問題において、重要な役割を担うのが、建物の所有者である「大家さん(賃貸人)」です。賃貸人には、賃借人(入居者)に対し、その部屋を使用収益させる義務があります。これには、単に部屋を使わせるだけでなく、入居者が安全で平穏な生活を送れる環境を維持する義務も含まれると考えられています。これを「環境維持義務」あるいは「修繕義務」の一環と捉えることができます。もし、ある一室のゴミ屋敷から発生する悪臭が、社会通念上、我慢の限度(受忍限度)を超えるレベルに達しており、他の入居者の健康や平穏な生活を著しく侵害している場合、賃貸人は、その状況を改善するための措置を講じる責任を負うことになります。具体的には、悪臭の原因となっている部屋の住人に対し、賃貸借契約に基づき、部屋を適切に使用するよう注意・指導を行う義務があります。それでも改善されない場合は、悪臭が契約違反(用法遵守義務違反)にあたるとして、契約の解除や退去を求めるなどの、より強固な法的措置を取るべき責任が生じます。もし、大家さんがこれらの対応を怠り、被害を放置し続けた結果、他の入居者が健康被害を受けたり、悪臭が原因で退去せざるを得なくなったりした場合、被害を受けた入居者から、大家さんに対して損害賠償を請求できる可能性もあります。つまり、大家さんは、「あれは入居者個人の問題だから」と、問題を放置することはできないのです。ゴミ屋敷の悪臭問題は、当事者である入居者と、被害を受けている隣人、そして建物全体の環境を維持する責任を負う大家さんという、三者間の複雑な法律関係の上に成り立っています。隣室の悪臭に悩んだ場合は、まず大家さんや管理会社に相談し、その責任を果たしてもらうよう求めることが、解決への第一歩となります。