「汚部屋」問題は、かつては高齢者や中高年の問題として語られることが多かったですが、近年、20代から30代といった比較的若い世代で汚部屋住人が増加しているという特徴が見られます。これは、現代社会が抱える様々な要因が複雑に絡み合って生じている新たな社会現象であり、若年層特有の特徴を浮き彫りにしています。まず、若年層の汚部屋住人の背景には、「経済的な困窮」が挙げられます。非正規雇用や低賃金により、生活に余裕がなく、片付けのモチベーションが低下したり、片付けにかかる費用(ゴミ袋代、清掃用具代、業者費用など)を捻出できなかったりするケースがあります。また、忙しい仕事のストレスから、片付けに時間を割けないという物理的な理由もあります。次に、「情報過多と選択の麻痺」も特徴の一つです。インターネットやSNSを通じて膨大な情報に触れる現代の若者は、物の選択肢が多すぎたり、完璧な片付け術やおしゃれな部屋のイメージに圧倒されたりすることで、何をどうすれば良いのか分からなくなり、結果的に何も行動できない「選択の麻痺」に陥ることがあります。他者のキラキラした生活と比較して、自己肯定感をさらに低下させてしまうこともあります。また、「社会的な孤立感」も深刻な問題です。都市部での一人暮らしが増え、地域コミュニティとの繋がりが希薄な若者は、困っていても誰にも相談できず、問題を一人で抱え込みがちです。部屋が散らかることで友人を呼べなくなり、さらに孤立が深まるという悪循環に陥ります。SNSでの交流は盛んであるものの、現実世界での深い人間関係が不足していることが、孤独感を助長する一因となっています。さらに、「発達障害の未診断・未支援」も重要な要因です。特にADHDの特性である不注意や衝動性は、物の管理や整理整頓を困難にし、ゴミ屋敷化を招きやすいです。しかし、診断を受けていない、あるいは支援に繋がっていない若者が多く、その困難が「だらしなさ」として見過ごされてしまうことがあります。若年層における汚部屋問題は、単なる片付けの問題ではなく、現代社会が抱える経済格差、情報化社会の弊害、孤立、そして発達障害への理解不足といった、多岐にわたる課題が凝縮されたものであると言えるでしょう。この問題を解決するためには、個人への非難ではなく、社会全体で若者たちを支える包括的な支援体制の構築が不可欠です。