ゴミ屋敷の問題は、単に部屋の中が散らかっているという、個人の生活空間だけの問題に留まりません。その壁一枚を隔てた向こう側では、近隣住民の平穏な暮らしを脅かす、静かなる二次災害が着実に進行しているのです。住人本人の健康や安全が危機に晒されているのはもちろんのこと、その影響は周囲へと波紋のように広がり、地域社会全体を巻き込む深刻なトラブルへと発展する危険性を常に孕んでいます。 最も直接的で分かりやすい被害が、悪臭と害虫の発生です。長年放置された生ゴミや食品の腐敗臭は、窓の隙間や換気扇を通じて屋外へと漏れ出し、隣接する家々の快適な生活を奪います。特に夏場はその臭いが一層強くなり、窓を開けることすらできないという事態も起こり得ます。さらに、ゴミの山はゴキブリやハエ、ネズミといった害虫や害獣にとって最高の繁殖場所となります。そこで増殖した彼らは、やがて隣近所の家へとその活動範囲を広げ、地域全体の衛生環境を著しく悪化させてしまうのです。 しかし、本当に恐ろしいのは、目に見えない形で進行する災害です。その筆頭が、火災のリスクです。ホコリが積もったコンセントからの漏電や、ネズミが電気コードをかじることによるショートは、いつ火災を引き起こしてもおかしくない時限爆弾のようなものです。そして、ひとたび火の手が上がれば、部屋に満ちた紙類や衣類といった可燃物の山は、一瞬にして燃え広がり、消火活動を著しく困難にします。その結果、自宅が全焼するだけでなく、隣家への延焼という最悪の事態を招き、多くの人の命や財産を危険に晒すことになるのです。 また、積み上げられた物の重みで床が抜け落ちたり、バルコニーに置かれたゴミが崩れて落下したりといった、建物の倒壊や落下物の危険性も無視できません。こうした二次災害は、ある日突然、何の前触れもなく近隣住民を襲います。ゴミ屋敷は、その家に住む人だけのプライベートな問題ではなく、地域社会全体の安全を脅かす公的な問題であるという認識が必要です。もし近隣に同様の問題を抱える家があれば、個人で解決しようとせず、自治体の担当窓口や地域の民生委員に相談することが、被害を未然に防ぐための重要な一歩となります。
ゴミ屋敷が引き起こす静かなる二次災害